ゆくはるや… 分類俳句 「行く春や重たき琵琶(びは)の抱(だ)き心」出典五車反古 俳諧・蕪村(ぶそん)[訳] 行く春を惜しみながら、琵琶をかき鳴らそうと膝(ひざ)の上に抱き上げてみたが、何となく重く、ものうく感じられることだ。 鑑賞古典的な優雅な世界を思わせ、また、「重たき琵琶の抱き心」には、女性をかき抱いているようななまめかしい風情の漂う一句である。季語は「行く春」で、季は春。 ゆくはるや… 分類俳句「行く春や逡巡(しゆんじゆん)として遅桜(おそざくら)」出典蕪村句集 俳諧・蕪村(ぶそん)[訳] 野山は日ごとに緑を増し、もはや春は過ぎ去ろうとしている。その中で、春も暮れていくのをためらうかのように、遅咲きの桜を美しく咲かせていることだ。 鑑賞擬人法を用いた表現。「逡巡」は、ためらうこと。黒柳召波(しようは)の「ゆく春のとどまる処(ところ)遅ざくら」を改作したもの。季語は「行く春・遅桜」で、季は春。 ゆくはるや… 分類俳句「行く春や鳥啼(な)き魚(うを)の目は涙」出典奥の細道 旅立・芭蕉(ばせう)[訳] 春がまさに暮れていこうとしている。惜春の情ゆえか、鳥の声も愁いに満ち、魚の目も涙にうるんでいるように思われる。そんな折、自分も親しい人々に別れ、離別の悲しみをこらえて、漂泊の旅に出ようとしている。 鑑賞『奥の細道』の旅中吟の最初のもので、千住(せんじゆ)で、見送りの人々に残す挨拶(あいさつ)の惜別の句。惜春の情と惜別の情とを重ね合わせ、それを無心な鳥や魚の悲しみとしてとらえた。季語は「行く春」で、季は春。 |