をか・し 形容詞 シク活用活用{(しく)・しから/しく・しかり/し/しき・しかる/しけれ/しかれ} ①こっけいだ。おかしい。変だ。出典今昔物語集 二八・四二「妻(め)『をかし』と思ひて、笑ひてやみにけり」[訳] 妻は「こっけいだ」と思って、笑って(責めるのを)やめた。②興味深い。心が引かれる。おもしろい。出典徒然草 一九「また、野分の朝(あした)こそをかしけれ」[訳] また、台風の(あった)翌朝(のありさま)は興味深い。③趣がある。風情がある。出典枕草子 春はあけぼの「まいて雁(かり)などの連ねたるが、いと小さく見ゆるは、いとをかし」[訳] いうまでもなく雁などが連なって(飛んで)いるのが、とても小さく見えるのは、たいそう趣がある。④美しい。優美だ。愛らしい。出典源氏物語 若紫「けづることをうるさがり給(たま)へど、をかしの御髪(みぐし)や」[訳] 髪をとかすことをめんどうがりなさるけれど、美しい御髪(おぐし)だこと。⑤すぐれている。見事だ。すばらしい。出典更級日記 大納言殿の姫君「笛をいとをかしく吹き澄まして、過ぎぬなり」[訳] 笛をとても見事に一心に吹いて、通り過ぎて行ってしまったようだ。 をかし 分類文芸「あはれ」とともに、平安時代における文学の基本的な美的理念。「あはれ」のように対象に入り込むのではなく、対象を知的・批評的に観察し、鋭い感覚で対象をとらえることによって起こる情趣。清少納言の『枕草子(まくらのそうし)』は「をかし」の文学の代表とされる。⇒あはれ分類文芸 をかし 【犯し】 名詞罪を犯すこと。また、罪。出典源氏物語 明石「前(さき)の世の報いか、この世のをかしか」[訳] (命がなくなろうとするのは)前世の報いか、この世で犯した罪(のせい)か。 |