たが・ふ 【違ふ】 >[一]自動詞 ハ行四段活用活用{は/ひ/ふ/ふ/へ/へ} ①相違する。食い違う。外れる。出典更級日記 夫の死「ただ悲しげなりと見し鏡の影のみたがはぬ、あはれに心憂し」[訳] ただ悲しそうだと見た鏡の姿だけが、外れなかったのが、悲しくも情けない。②背く。逆らう。出典徒然草 一五五「ついで悪(あ)しきことは、人の耳にもさかひ、心にもたがひて、そのこと成らず」[訳] 折の悪い事柄は、他人の耳にも逆らい、心にも背いて、その事柄が成就しない。③いつもと変わる。正常でなくなる。出典竹取物語 燕の子安貝「貝にもあらずと見たまひけるに、御心地もたがひて」[訳] (中納言は)貝ではないとご覧になって、ご気分もいつもと違って悪くなって。 >[二]他動詞 ハ行下二段活用{語幹〈たが〉}①食い違うようにする。背いて裏切る。出典源氏物語 桐壺「ただかの遺言をたがへじとばかりに」[訳] ただ、あの(故大納言の)遺言に背いて裏切るまいとだけ。②方違(かたたが)えをする。出典源氏物語 帚木「二条の院にも同じ筋にて、いづくにかたがへむ」[訳] 二条院も同じ方角なので、どちらに方違えしようか。③間違える。誤る。出典蜻蛉日記 中「所たがへてけり」[訳] (返歌を届ける)場所を間違えてしまった。 ちが・ふ 【違ふ・交ふ】 >[一]自動詞 ハ行四段活用活用{は/ひ/ふ/ふ/へ/へ}①行きかう。交錯する。出典枕草子 春はあけぼの「闇(やみ)もなほ蛍の多く飛びちがひたる」[訳] 月の出ていない夜もやはり、蛍がたくさん飛び行きかっている(のがおもしろい)。②行き違いになる。遭(あ)わないようにする。出典平家物語 八・室山「木曾(きそ)にちがはんと、…播磨(はりま)の国へ下る」[訳] (行家は)木曾義仲(よしなか)に遭わないようにしようと、…播磨の国(兵庫県)へ下る。③外れる。それる。④相違する。食い違う。背く。出典曾我物語 四「母や師匠の御心にちがはん事、いかがすべきなれども」[訳] 母や師の御心に背くことはどうすればよいかと思うが。 >[二]他動詞 ハ行下二段活用活用{へ/へ/ふ/ふる/ふれ/へよ}①交差させる。出典徒然草 二〇八「紐(ひも)を結(ゆ)ふに、上下(かみしも)よりたすきにちがへて」[訳] 紐を結ぶのに、上下からたすき掛けに交差させて。②悪夢を吉夢に変える。夢違(たが)えをする。出典蜻蛉日記 上「しばしば夢のさとしありければ、ちがふるわざもがなとて」[訳] しばしば夢のおつげがあったので、夢違えをする方法があったらなあと思って。③相違させる。変える。出典平家物語 三・法印問答「理運左右(さう)に及ばぬことを、ひきちがへさせ給(たま)ふは」[訳] 道理にかなって異議がないことを変えなさるのは。④間違える。 参考類義の語に「たがふ」がある。「たがふ」が、自分や相手の予想・意向と食い違う意であるのに対して、「ちがふ」は、具体的な動作が互いに交差したり行き違ったりする意が本義。なお、「ちがふ」は、古くは「…ちがふ」の形の複合動詞として用いられることが多い。 |