から・し 【辛し】 形容詞 ク活用活用{(く)・から/く・かり/し/き・かる/けれ/かれ} ①塩辛い。出典万葉集 三八八六「難波(なには)の小江(をえ)の初垂(はつたり)をからく垂り来て」[訳] 難波の小江でできた最初の塩汁を塩辛くしたたらせて。②つらい。切ない。苦しい。出典大鏡 道長下「衣(きぬ)被(かづ)けられたりしも、からくなりにき」[訳] 衣を褒美に与えられたのも、かえってつらくなった。③むごい。残酷だ。ひどい。出典徒然草 六九「恨(うら)めしく我をば煮て、からき目を見するものかな」[訳] 恨めしくも私を煮て、ひどい目にあわせることだなあ。④いやだ。気にそまない。出典堤中納言 虫めづる姫君「からしや。眉(まゆ)はしも、かはむしだちためり」[訳] いやだなあ。眉は毛虫みたいに見える。⑤あやうい。あぶない。▽「からき命」の形で、命拾いしたときに用いる。出典徒然草 五三「からき命まうけて、久しく病みゐたりけり」[訳] あやうい命を助かって、長い間病気で苦しんでいた。⑥はなはだしい。ひどい。出典大鏡 道長下「けしうはあらぬ歌詠みなれど、からう劣りにしことぞかし」[訳] そう悪くもない歌人だが、ひどく見劣りがしたものだ。◇「からう」はウ音便。 注意現代語「からい」と異なり、味覚のほかに心情も表す。 つら・し 【辛し】 形容詞 ク活用活用{(く)・から/く・かり/し/き・かる/けれ/かれ}①薄情だ。冷淡だ。つれない。出典土佐日記 二・一六「いとはつらく見ゆれど、志はせむとす」[訳] (留守番の人は)とても薄情にみえるけれど、お礼の贈り物はしようと思う。②たえがたい。苦痛だ。つらい。出典源氏物語 桐壺「命長さのいとつらう思ひ給(たま)へ知らるるに」[訳] 命を長らえていることが、とてもたえがたく思われますのにつけても。◇「つらう」はウ音便。 |